(1) 先進プロセス技術の開発研究

液体クラスターイオンビーム技術の開発(具体例)

 液体材料からクラスター(ナノ粒子)を生成し、イオン化・加速して照射することによって、金属、半導体、絶縁物、有機物など、様々な材料表面を高速に削り、磨き、また液体材料自身の化学的性質を活用した表面改質を実現しています。こうした我が国独自の材料プロセス技術の開発に成功しています。 

概要

 固体表面への1個のクラスターイオンの照射領域は、ナノメーター(nm)オーダーの極微細領域です(図1参照)。また、クラスターイオンと固体表面との相互作用はピコ秒からナノ秒の瞬時の多体衝突過程です。液体クラスターイオン照射の場合、その化学的特性を併用することによって、瞬時の反応速度にも対応できる化学反応の活性化や選択性の制御、あるいは固体表面の親・疎水性や潤滑性などの制御、付加・置換反応による表面改質などを行うことができます。しかもイオンの運動エネルギーを利用することができるので、固体表面の特定の原子結合を切断したり、表面を局所加熱したりすることができます。したがって、従来のイオンビーム技術では得られないクラスターイオン特有の表面反応や表面照射効果が得られます。

図1: 液体クラスターイオンの固体表面照射効果

 この照射効果を示す一例として、種々の金属や半導体表面に水やエタノールクラスターイオンを照射したときのスパッタリング率を紹介します(図2参照)。図に示すように、液体クラスターイオン照射では、アルゴン(Ar)モノマーイオン照射に比べて10倍から数百倍のスパッタリング率が得られています。特に、エタノールクラスターイオンをシリコン(Si)やアルミニウム(Al)に照射した場合、極めて高いスパッタリング率が得られており、固体表面で化学的スパッタリングが生じていると考えています。半導体分野で用いられているウエットプロセスでは、水やエタノールは固体表面の洗浄に用いられていますが、表面をエッチングする(削る)ことはできません。液体クラスターイオン照射では、照射領域が等価的に極めて高い温度になるため、化学反応が促進されて表面エッチングが生じやすくなると考えています。

図2: 液体クラスターイオン照射におけるスパッタリング率

 他の照射効果を示す例として、水やエタノールクラスターイオンをSi表面に照射した場合では、水の接触角が大きく変わります(図3参照)。図に示すように、水クラスターイオン照射では、接触角が5°以下の超親水性となり、エタノールクラスターイオン照射では90°以上の撥水性になります。液体クラスターイオン照射では、材料表面の親・疎水性などを照射条件によって制御できるので、液体材料自身の化学的性質を活用した表面改質(表面修飾)が実現できます。また、エッチングされた表面は、表面粗さが1 nm以下の超平坦な表面になっており、表面を磨くこともできます。このように、液体クラスターイオンビームプロセスは、従来のウエットプロセスでは実現できない表面処理を実現する表面反応プロセスとして、海外でも注目されています。

図3: 液体クラスターイオン照射による接触角の変化
Copyright © 2008 京都大学 光・電子理工学教育研究センター ナノプロセス工学分野